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志士仁人 宮下紘教授インタビュー

  • 執筆者の写真: 中央大学新聞
    中央大学新聞
  • 6 日前
  • 読了時間: 10分

第3回の今回は、総合政策学部の宮下紘教授にお話を伺いました。



総合政策学部 宮下紘教授
総合政策学部 宮下紘教授



ー研究分野についてお伺いしてもよろしいでしょうか

 

 研究は法律学でして、その中でも憲法情報に関連する分野ですね。

 



ーその「情報」について、具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか。


 情報と言っても、情報公開法から個人情報保護法まであり、最近ですとAI法というのもありますけども、特に個人情報保護法を中心に研究をしております。



教科書に掲載されていたものも、忘れられる権利についてのものですよね。

 

 そうですね。高校生の三省堂現代文の教科書に掲載させていただいております。


次にその研究を始めたきっかけについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

 研究を始めたきっかけは大学で法律を勉強した際に憲法学の奥の深さに気づいて勉強を始めました。これは学生の皆さんにも時々言うんですけれど、私が1年生のときに受けた憲法の試験がSではなくてその試験はできていないと自分でもわかったんです。だから、非常に奥の深い分野だっていうことを悟り勉強するようになりました。悪い点数を取ったのがきっかけで勉強するようになったという経緯があります。


ーそれでは、続いて研究分野の魅力についてお伺いしたいです。やはり法律の奥深さでしょうか。


 それはやっぱり奥深さですね。結局どの学問も奥は深いんですけれど、憲法学っていうのはconstitutionでして、国をいかに作っていく(constitute)のかと。憲法を考えることは、この国のかたちを考えることです。国家像にまで迫るという学問だというところが非常に興味深いですよね。


ー私もその憲法の授業を受講させていただきました。今年の後期の授業前半の方で扱っていた憲法9条について、先生のお考えを教えていただきたいです。


 9条についてはおそらく憲法学で全て解決する問題ではないと思います。 ですので、憲法の教科書の中には憲法を学ぶというのは歴史学や人類学、政治学、経済学等の知見を生かすことを指摘するものもあります。9条や安全保障を巡る問題は、おそらく憲法の条文を見ているだけで答えは出てきません。現実の世界がどう動いているのかという動態的側面と、あとは法解釈として純粋に法律家として何が言えるのかという客観的側面、つまり現実と法解釈とのギャップをどう考えていくのかっていう視点が求められます。9条に関しては、法律を勉強してない人ですと自衛隊の存在自体が憲法違反ではないかという発想があります。しかし、授業でも説明したように「前項の目的」を達成するための、その目的が何を指しているかによって、自衛隊は憲法違反でない、憲法違反であるという、どちらの解釈も導かれます。 結局この問題は法律を学んでいる人と学んでない人では、9条に関する理解の差が生まれてしまうと思っています。


ー最近の社会情勢で関心があるものは何でしょうか。


 最近ですとやはり人工知能AIを巡る問題ですね。学生の皆さんはどのぐらいAIを使っているんですかね。  ChatGPTや画像生成AIは皆さんも使うと思います。 非常に便利ですよね。利便性があることは間違いないことです。それを止めることもできないし、今後普及していくでしょう。 ただ同時に、生成AIを使って、誤情報や偽情報が拡散されたり、一国の総理の真似をする動画配信も出てくるような事態が生じています。だから法律を研究する人間としては、技術の光の側面ではなく、影の側面をいかに取り除いていくか、あるいは小さくしていくかということを考えています。AIを巡る問題は人権に関わる問題ですので、個人情報保護法や憲法の観点から、できるだけ影の側面を除去していく研究に最近興味があります。先週ちょうど国連の人権高等弁務官事務所の国際会議(スイス・ジュネーブ国連の会議)に私が呼ばれて行きましたけれども、まさにそこでは誤情報による選挙活動に各国でどのくらいみられるのかということについて、日本の情勢について説明しようというお話をいただいたので私が説明してきました。

ジュネーブ国際会議に出席する宮下教授
ジュネーブ国際会議に出席する宮下教授

ー現代の日本において、政治活動における誤情報っていうのはどういった状況にあるんでしょうか?

 

 例えば、皆さんが見るXって中立だと思っていたら大間違いです。過去の閲覧履歴やリポスト、いいねの履歴に基づいてその人に個別化されたタイムラインが作られるわけですよね。 タイムラインっていうのは一度見ると、同じような意見ばかり出てくるので自分の意見が正しいんだ、というふうに勘違いをし、ネット上の集団ができてしまって、さらに「グループポラリゼーション」、すなわち空間的集団が極性化して極端な意見に走りやすいと。 だから反対意見を見なくなるということですよね。


 Xの調査によると、2021年の論文において、日本のタイムラインは初期設定の状態で、実は保守政党の投稿の方がその他の政党よりも多く表示される仕組みになっていました。これは別に保守政党がそう仕組んでいるわけではなくて、Xのアルゴリズムがそういうふうな設定になっていたということなんですよ。 結局インターネット上に出ている情報が中立ではない中で、その情報が正しいと信じ込んでしまうことがあります。それに対して反対意見を寄せ付けないですよね。自分が異を唱えたら、インターネットですと叩かれますよね。 だから何が正しいのかというものについて、オールドメディアと言われているテレビも新聞も同じで、真実を発見するプロセスというのがある種歪められているように感じます。 ご自身が大学時代に勉強して、良識を身につけて何が正しいかっていう情報を取捨選択していく能力を身につけることがすごく大切になると思います。


ー大学生に向けて、大学のうちにやっておいた方がいいことはございますか。


 旅行でもバックパッカーでもいいので、海外に行っていただくことでしょうか。海外に行っていただいて外から日本を見ると、いろんなことがわかってきます。同時に外に出ることによって自分の能力と限界もわかってくるので、自分がどういうものなのかっていうのがわかってくると思います。 結局大学4年間というのは自分探しの時間ですので、先ほどの表現の自由の話と同じですけども、自分と近いものに近寄るんじゃなくて、全く違う空間に自分の身を置くことによって、 自分探しができると思います。


ー情報を取捨選択する力を身につけることが大事だという話をされていましたが、そのような力はどのようにしたら身に着けられると思われますか。

 

 それは法律的に言うと個別の事件(case)ですね。 教科書を読んでいるだけでは出てこないので、具体的に起きた事件に対して裁判所はどんな事実認定をしてどんな判決を下したのかを学ぶことです。皆さんは社会の生活の中でもいわゆる炎上ケースみたいのがありますが、それはご自身が何気なく学んでいるわけです。 大学生活はこういうことを言えば炎上するというのは、過去にそういった例を多く見れば見るほど、失敗をしなくなるということです。ですから、情報を取捨選択する力を身につけるにはケースの積み上げを重ね、実証的な研究しかないので、そのケースをしっかりと積み重ねていく勉強しかないんだと思います。


ー先生は大学時代、海外に行かれた経験とかはおありでしょうか。


 海外に1年に1回は行っていましたね。 1年に1回どころか何回か行っていました。 同級生に海外留学とかに行っている人がいるでしょう。 その友人のところを訪問したことがあります。あと、将来自分が行ってみたい国よりも、人生生きていて行かないなって国に行った方がいいですね。自分が憧れの国、例えばフランスのパリに行きたいなという憧れを持っていても、人生のどこかで行きたい国って、どこかで行くんですよ。社会出てから仕事を休んでも、絶対行かないところに行くと良いでしょう。例えば私は、後輩がインドネシアの大学に留学していたので、インドネシアには学生のときだけも数回行きましたね


ーそのインドネシアの経験で何か一番思い出に残ったこととかありますか。

 

 地元の子供にアルバイトをしてもらって道案内をしてもらったことですね。道なき道を山の中を歩いて行ったってことがあって、それは子供は山の中の道を知っているので、日本人がもう誰も訪れたことがないような島とかいろいろ巡ったのでそこを道案内していただきました。コモドトカゲという、人を食べるような大きなトカゲがどこにいるかは子供の方が詳しいので、子供から教わったっていうことがありましたね。 海外に行くとそういった経験ができるので、春休み夏休みを使ってぜひ行ってみてください。そのほかに、アメリカ、イギリス、オーストラリアも行きました。ただ、主要国にはイメージがあると思うんですけど、多くの場合そのイメージ通りなんですよ。見たり聞いたりしたこともないようなところ、私もインドネシアのパプアニューギニアの国境沿いの未開の地にも訪問しましたが、今考えるとそちらの方が得るものがあったかなと思います


 冒頭の話ですけど、 私の専門は憲法です。 国を作るってことは、それぞれの国、国連の加盟国193カ国に別々の憲法があるんですよ。それぞれ別の憲法があるのかって言ったらそれぞれの国の文化と歴史と伝統があるから違いがあるんですよ。 だけどその国に行かずしてアメリカ憲法はどうで、ドイツ憲法はこうだとか抽象的に議論しても私にとっては理解ができませんでした。空想上はそうなんだろうなってことなんですけれど、なぜそうだったのかっていうことがなかなかわかりません。やはり憲法になぜこのような規定が置かれているのかを理解するのは、実際に現地で体験していただくことが学生の間で重要なことだと思いますね。そうすると、学んでいることと、実際に体験したこととか、ハーモライズする、うまくかみ合うと思います。


ーもし大学時代に戻れるとしたら、これやっておけばよかったとかもっとあれやりたいとか思われることありますか?


 語学ですね。英語については大学のときからあまり問題なかったんですけど、もっとやっておけばよかったと思うのが、国際公用語のフランス語です。フランス語は学生時代にもっと勉強しとけばよかった、大学4年間ずっと取っておけばよかったと思います。


 さらに付け加えると、先日訪問したスイスのジュネーブには公用語が四つあります。第一外国語はフランス語ですけれど、電車に乗るとドイツ語とイタリア語でアナウンスがありますし、どれもわからない人のために英語も出てきます。だからスイス人は5歳児でも、4カ国語を電車に乗って毎日それを聞いているので、最低限のことを話せるんですよ。 多言語の人たちはやっぱりいろいろ感性が違うんです。それぞれやっぱり歴史と伝統と文化も違うので、それを小さな頃から吸収してきています。日本のような同質性の高いクラスを見回しても日本語しか話せない人っていう環境よりも、小学校から4カ国語を話すような人たちが混ざっているところで育っていると、やっぱり物の見方が変わってくると思います。学生のときに外国に行くこと、マルチな言語を操れる人っていうのは今後すごく求められると思います。それはChatGPTとかインターネットで翻訳っていくらでもできるわけですが、それぞれの言葉には意味があって文化を反映していて、物事の見方まで機械は教えてくれません。そういったマルチな言語を学ぶっていうことを学生の間にやっておけばよかったと後悔しています。ぜひ戻れるならあのフランス語とドイツ語、もう1カ国ぐらい、4年間ずっと取り続けていたいなと思います。


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